メルとモノサシ

2021/04/20 15:23



「CUORE」村上加奈子さんのストーリー

 

 

昔から、服やアクセサリーが大好きなんです。結婚して子どもが生まれてからも、出かける時にはアクセサリーをつけると「楽しい!」ってスイッチが入って。だけど、買い物に行って「ママこのお店見たいからちょっと待って」って子どもたちを待たせることには違和感があったんです。「だったら自分の気に入ったものをつくっちゃえ!」と、自分でつかうアクセサリーをつくるようになりました。

 

それが、3人目の妊娠がわかった頃。うれしいことに友人たちから「私にもつくって!」と言われるようになり、素人ながら人のためのアクセサリーづくりを始めました。でも「お金払うからつくって」と言われたのを機に「素人のままではダメだな」と。授乳の合間を縫って教室に通い、金具の選び方や回し方、接着剤のつかい方などをしっかり勉強し、アクセサリーづくりの資格を取りました。

 



播州織シリーズのはじまり

 

作家として地域のイベントなどに出店するようになって2〜3年経ったある日、地元の播州織の機屋さんが声をかけてくださって。「展示会で出したいから、播州織でアクセサリーをつくってみてくれない?」と、上質な播州織の大きな生地を渡されたんです。

 

そんな立派な生地はアクセサリーにはもったいないから、「端っこの捨てるようなものでいいです」と、倉庫の段ボール箱にたまっていた端切れをいただいてつくり始めたのが、CUOREの播州織シリーズのスタートでした。当時はアップサイクルなんていう言葉も知らず、ただ「もったいない」という気持ちから始まったんです。





タテ糸の特徴をいかす

 

播州織のタテ糸と出会ったのは、それから約1年後。播州織の端切れをつかってラッピングをされている方が地元にいらして、播州織の工房から廃棄タテ糸を譲り受けてリボンとしてつかわれているんです。ラッピングに立ち会った時に、タテ糸リボンを結んで端をチョキチョキと切り落とし捨てているのを目にして、「ちょっと待って!」と。短すぎてリボンにはならなくても、かわいいアクセサリーになるんじゃないかと2人でひらめいたんです。




 

タテ糸(経糸)というのは、播州織の生地を織る前に織機にピシッと張られているタテ方向の糸のこと。先に染め上げられた糸のうち、タテ糸だけが糊付けされてから織機にかけられます。その工程でどうしても捨てられる部分が出てしまう。そんなタテ糸を活用するラッピング作家さんの元でも活用しきれない残糸を、私が引き受けてきました。まだまだ十分にキレイなんです。「タテ糸ボンボン」というシリーズをつくったところ、西脇市のふるさと納税返礼品にも選ばれました。





タテ糸は糊がついてピシッと硬いのが特徴です。そして何より、品がいいんです。職人さんがやってきた歴史というか、やっぱり産地で先染めしたいろんな色の糸を合わせて織っていくから、日本人の肌に合う鮮やかな色になるのかな。

 

アクセサリーにするときは、硬い状態のものを裂いたり、リボン状のものはそのままつかったり。一つひとつ色合いが違うので色の抜き差しを楽しみながらつくっています。糊の強弱もあって、例えば糊の強い部分ばかり集めたところに弱い部分を足したらうねりが出るのもおもしろいんです。






作家としてのブレない軸

 

つくり手とつかい手が一緒に仕上げていって、最終的に一番心地いいものに落ち着かせたいので、あえて糸を長めに使っています。人によって似合う長さも好みも違うので、使う人が自分で切って使ったらいいと思っていて。糸だからできることですよね。作家として「この形でつけてください」というこだわりはないんです。

 

それはたぶん、「自分が楽しむアクセサリーをつくる」というのがブレない軸としてあるから。子育て中に自分の気持ちを上げるためにつくったのが最初で、「心を休める」「自分が心躍るアクセサリー」が原点。そのコンセプトは変えたくないし、「子どもたちとの時間が最優先」というスタンスも変わりません。

 

だから、子どもたちが遊びたいと言ってるのに「ママは制作せなあかんから待って」というのはルール違反。「ちょっと待って」とアクセサリーを買っていた頃と同じになっちゃう。それを言いたくなくて始めたんだから、子どもたちが学校に行っている間や寝ている間に作業を楽しんでいます。ちょっとした隙間時間があると、「うわ、つくれる!」って、得した気分になるんですよ。





産地を出て伝えていきたい

 

2021年春からは、産地でありこれまでの販売拠点でもある西脇を出てみることにしました。優しく守ってもらった産地から一旦出て、多くの人にタテ糸に興味を持ってほしいんです。「なぜこれがアクセサリーになったの?」「誰がつくったの?」って。この糸を染め、織り続けてきたおじいちゃんおばあちゃんが「ここは生地にならんかってん、しゃーないねん」って捨てたタテ糸を「何とかしたい!」という思いがつながってできた作品であることを伝えていくつもりです。

 

心がつながっていないと、いいものって生まれないと思うんです。ブランド名の「CUORE(クオーレ)」は、イタリア語で「心」っていう意味。私にとって大事なキーワードです。






 いとおしさがこみ上げる瞬間

 

タテ糸アクセサリーをつくる最後の仕上げに、タテ糸をほぐす作業があるんです。そのときにつかう金櫛ってどこにも売っていなくて、時代の流れで廃業した播州織の工場で捨てられずに置いてあったものを譲り受けつかっています。何十年もつかってきたからサビサビでボロボロなんですけど、やっぱり播州織にふさわしい道具なのかなじみもよく、それでほぐすと絶妙な混ざり方をするんです。

 

束になったタテ糸で形をつくり金具をつけ、最後の最後に金櫛を入れて、全ての糸の繊維がフワッと混ざるその瞬間、作品がかわいく出来上がることへのいとおしさがこみ上げると同時に、そこに乗っかったいろんな人の思いがつながって、プラスもマイナスも一気に中和される気がするんです。「なんてドラマチック!」って思ってしまうぐらい。ものすごくいいものを託されているんだなって実感する瞬間です。

 

人と人とのつながりが希薄になっている今の時代だけど、タテ糸アクセサリーを通じて、いろんな人のいろんな思いがつながっていくことの良さを、みんなが心に留めてくれたらうれしいですね。




Kanako Murakami

播州織の産地・兵庫県西脇市に隣接する加東市で「CUORE」を立ち上げアクセサリーを制作。播州織タテ糸アクセサリーのシリーズは西脇市のふるさと納税返礼品に選ばれている。家業は電気屋さん。








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