メルとモノサシ

2021/06/25 16:19



 

きっかけは2018年、浦田さんが出産をしたことでした。

 

「自分のほしいと思うマザーズバッグやベビーカーバッグになかなか出会えなかったので、テント生地でつくってもらったら、軽いし拭けるし丈夫だし、すごくよかったんです。穴があくんじゃないかってくらいつかい倒しました。

 

このコロナ禍で、子どもを連れて外に行くのも気をつかいますよね。Roofでは子どもを未来そのものと捉え事業軸の一つにしていることもあり、親のストレスを少しでも減らし、子どものらしさを受け止める余裕につながる商品ができないかなと、前身ブランドの『ethical HARIMA』を『巡り巡る』と改め、育児アイテムに特化することにしました。

 

その名のとおり資源の循環を意識し、地域で廃棄される運命にある、安全で未利用の素材を原材料にしてものづくりをしていくつもりです」(浦田さん)






地域の“ありたい暮らし”を形に

 

浦田さんが共同代表を務める合同会社Roofは、兵庫県の播磨町でクライアントワークをメインとする小さなまちづくり会社。ものづくりの事業を始めたのは、「地域の新しい特産品になるような記念品をつくりたい」というクライアントからの依頼を受けたことがきっかけでした。

 

「アイデア探しのために地域の歴史文脈を辿っていったら、古くから続く工業用フェルトの工場で再生フェルトの在庫に出会い、“何かにつかいたいな”と感じたり、播磨町にはリサイクルセンターがあって資源の再利用に注力していることを知ったりして、単純に消費されるだけのものではなく、未来に続くメッセージ性のあるものをつくりたい、と考えるようになりました。

 

そこで『播磨町のありたい暮らしをカタチにする贈り物』という企画コンセプトで、記念品とあわせて地域で出た廃材を活用した持ち帰り用バッグ提案したんです。結局その案はボツになっちゃったんですけど、この企画って私たちにとって大事だな、と思って。なんとかこれを自主事業に育てられないかと、2017年にテント生地の廃材(未利用の残反)をつかってバッグやポーチなどをつくったのが『ethical HARIMA』です。共同代表の佐伯が中心になって、地域の職人さんたちといろんな可能性を探っていきました。」(浦田さん)

 





まちの多様な人材でつくる

 

生産は当初から「まちぐるみでつくる」という体制。そこにはまちづくりの会社ならではの、地域とのつながりがいかされています。

 

「私たちが商品の企画をして、地域の職人さんと一緒に開発し、縫製を依頼しています。なるべく地域の資源をつかって地域に還元する形にしたいと思っていて。

 

このために職人さんをわざわざ探したわけではないんです。まちづくりのお仕事をする中で知り合った雑貨屋さんがアイデアを形にするのがすごく上手な方で、何か一緒にできないかな、とずっと思っていて。その方から、これをつくっているのはこういう人だよ、この素材はここからもらっているんだよ、とまちの多様な人材につながっていきました」(浦田さん)






素材についても、「廃材で何かつくりたい」と口にしただけで、地域の人たちが「こんなのがあるよ」と声をかけてくれたそう。また、商品の発送を担当するのは、別のプロジェクトを機にいい関係性を築いてきた福祉支援施設のみなさんの予定。Roofの日々のまちづくりの中でできた人脈がここでつながっています。

 

Roofのお仕事では、地域の方たちとのプロジェクトを一つひとつやっていく中で、みなさんが本当は何をやりたいのかを聞きたいな、自分自身も言いたいな、っていうのがあって。それをなんとなく覚えていてどこかの段階で形にしていくっていうのが、プロセスとしてあるのかもしれないですね。Roofの持ってる財産ってなんだろう?と考えたときに、そこなんだろうな、と」(浦田さん)





子どもの環境が未来につながる

 

「巡り巡る」のブランドコンセプトは「私たちのほしい未来をつくる」。文化人類学者マーガレット・ミードの「The future in now」という言葉をヒントにしています。

 

「未来は今の私たちの選択一つひとつでつくられていくと思うと、子どもが最初にふれる日常をかたちづくる環境に対してどういうものを選んでつかうのか、贈るのか、ということを通じて社会全体をデザインしていけたらいいなと。そしてできるだけ手に届く価格で、エシカルな消費をする選択肢を子どもの身近につくることが、豊かで持続可能な未来につながるんじゃないかと考えています」(浦田さん)




とはいえ、最優先にしているのはあくまで商品のつかいやすさ。育児のストレスが減り、より楽しめるようになれば、親はもっと子どもに関わりやすくなり、子どもの個性を尊重するようになり、子どもの未来の可能性が広がる。その考えは機能面にしっかりと表れています。

 

「在間と2人で市場調査をいっぱいして、マザーズバッグの口コミに多かった“ポケットがありすぎてもつかいにくい”“重たすぎる”“肩紐が食い込む”“高さが足りない”というような不満を全部クリアしたり、全部の機能を一つの商品に盛り込まず、機能やカラーをお好みで組み合わせられるようにしたりと、育児経験者の人が、これだったらつかいやすいよね、と贈りたくなるようなものを目指しました」(浦田さん)



テント生地ゆえの苦労と魅力

 

あえてペアレンツバッグとうたい、夫婦や複数人で共用しても何がどこにあるかが分かりやすく、すっきりカッコよくつかえるデザインにしたのもポイント。たくさんのこだわりを実現できたのは、デザイナーの在間さんと職人さんたちによる試行錯誤の賜物です。

 

「テント生地はすごく分厚いので、熟練の職人でも縫製が難しいんです。布地のようにマチ針で止められないし、針穴が目立つから失敗は許されず縫製は一発勝負。全てのこだわりを盛り込んだら一つの商品の縫製に7時間かかってしまうなど、機能性と実現性のバランスが本当に難しくて。市場に同じような商品がない理由がよくわかりましたし、だからこそ本当につかえるものになったと自負しています」(在間さん)

 


 




テント生地の残反は色も形もバラバラで、探しても同じ色には出会えません。生産の段階でロールごとに少しずつ色が異なるためテントメーカーが商品の補修用に保管するものの、日に当たり色褪せてしまった商品にはつかえず大半が廃棄になってしまうという背景があります。

 

「廃材になってしまう原因が、巡り巡るではたくさんの色を楽しめるという魅力になっているんです。これからどんどん、いろんな組み合わせのパターンができていくんだな、どんな表情にもなるんだろうなっていうのが、楽しくていとおしいところ。そんな有限性を楽しんでもらいたいですね

(在間さん)




まちの資源は巡り続ける

 

今後はテント生地に限らず、巡る資源にこだわり、地域の未活用の紙や木、食材などいろいろなものをつかっていく予定だそう。

 

「やっぱり地域の方とのつながりが深くて。今は、地域にある素材をつかって安心安全な形で提供するベビー用の食品のアイデアなんかが出ています。海外にはまだ日本にないような育児商材があったので、そういったものもつくっていきたいですね」(浦田さん)

 

未活用の資源が、まちの人びとの手によって子どもの日常をかたちづくるものになる。そのサイクルが子どもの未来、ひいてはまちの未来につながる。まちづくりの会社だから描けるこのビジョンを、イメージしながらつかっていきたいと思いました。








Haruka Urata(写真左)

合同会社Roof共同代表。まちをともに耕す人。まちづくりの専門家として、家族とともに世界を旅するように暮らしながら、地域の人々の「もっとこう暮らしたい」を一緒に叶えることで、ただ移り住んだだけでは孤立してしまいがちな自分の暮らしも楽にしている。自身の生き心地のよい暮らしは、週3社会のためになる仕事をして、2日は研究、2日は家族と過ごすこと。

 

Yumeno Arima(写真右)

合同会社Roof所属。デザインする人。グラフィックデザインを中心に映像やアニメーション、人サイズのプロダクトデザインに取り組む。地域にある面白そうなことを可視化し、伝えるお手伝いをして、日々を楽しんでいる。




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