2021/07/09 16:41
ものづくりにおける“資源”には、素材と人材、それに時間や場所などがあります。
「素材にばかり光が当たると、人材が見えなくなってしまいがち。」と話すのは、毛布ブランドLOOM&SPOOLを手がける廣瀬さん。
廣瀬さんがLOOM&SPOOLのものづくりにおいて軸にしているのは、「素材も人材も時間も無駄にしない」という考えです。
「手間ひまかけるところと、手間ひまかけずに済ませられる部分。しっかり使い分ければ精度の高いものができるはずです。“定番の形”や商品をつくる上での“フォーマット”をつくることで、時間に余裕が生まれ、つくり手のQOLも高まる。そんな生活に少しでも近づけていきたいです」(廣瀬さん)
そんな廣瀬さんが今回着目したのは、“遊休資源”。冒頭に紹介したように、素材だけでなく、人材や時間にも配慮する新しいプロジェクト「USE UNUSED」を立ち上げました。

倉庫に残された素材
“遊休状態の素材”とは、工場の倉庫に眠っている中途半端な素材のこと。
そのほとんどは、メーカーなどから請け負って品物を生産したものの、販売に至らなかったり、売れ行きが悪かったり、少しの汚れがあったりしたために、縫製や加工をする前の“素材”の状態で、工場判断で廃棄をすることもできず、保管だけされています。

廣瀬さんは一人のデザイナーとして、これまで自分が企画してきた商品の素材が工場に眠ったままになっていることを、ずっと気にかけていたそう。
「倉庫の中に残された素材はどう思ってるんだろう?と、ずっと気になっていました。素材はあくまで新品で何の問題もないのだから、なんらかの形で活用して倉庫が空になれば、工場も楽になるんじゃないかなって考えたんです」(廣瀬さん)
シンプルにつくることにこだわる
自身が企画した商品の遊休素材を世の中に送り出そうと決めた廣瀬さんが、そこに遊休状態の人材や時間効率をかけ合わせて企画したのは、LOOM&SPOOLのコンセプトからのごく自然な流れでした。
「縫製工場の空いてる時間に生産をすることで、忙しい時間に無理をさせることなく、空いている時間をいかして仕事ができるので、余裕のあるものづくり・働き方を実現できます」(廣瀬さん)
「“シンプルにつくる”ことにこだわりました。デザイナーのエゴは、工場に負担をかけることも多いのをよく知っているので。こだわりを排除し、工場の長年やり慣れている技法で、ストレスなく安定した品質を目指しました」(廣瀬さん)
素材には限りがあるものの、一つの生地がなくなったら別の遊休生地で同じ形のものを生産していく。そうすることで、「USE UNUSED」は工場の閑散期をいかせる継続的な取り組みにしていくことができます。
素材が成仏するまでつかいたおす
このプロジェクトにはあえて、消耗品になるような商品を選びました。
「“ずっとつかっていく”というよりも、お客さまに気持ちよくつかいたおしてもらうことで、素材も成仏するというか、達成感があるんじゃないかな、って思いました」(廣瀬さん)
第一弾はスリッパ。スリッパ工場がつくり慣れている、いぐさスリッパの形を応用することで、時間のロスを省きました。
つかっている素材は明るいストライプの高島帆布。これは、バッグや雑貨用に開発した素材です。コットンとジュートで織り上げた肉厚で丈夫な生地は、素足にもさらっと心地よくつかえます。
今後は、キズがあって毛布にできなかったLOOM&SPOOLの素材で小物をつくるなど、廣瀬さん自身が開発に携わってきた遊休素材を中心に活用していく予定だそう。
資源のベストパフォーマンス
廣瀬さんはUSE UNUSEDを通じて「消費のパワーバランスを整えたい」と語ります。
「これまでは、“消費者優先”でものをつくってきたけれど、そのパワーバランスを少しずつ調整していきたい気持ちです。消費者ニーズは大事にしながらも、素材・人材・時間のベストパフォーマンスを目指したいんです。だから、素材だけなく人材にも光が当たるような“遊休資源の活用”をしていきます」(廣瀬さん)
理想的なものづくりとして、「生産者への配慮」だったり「アップサイクル」だったり、近ごろはいろんな言葉が使われるようになってきました。でも、ものづくりにおける資源のどれか一つだけに注力することが多く、その全体バランスを意識している企画者は多くないように感じます。
「マーケティングや企画がしっかりしていないと、一般の商品と肩を並べられない。市場を知らない工場が自分たちで遊休素材を商品化するのは難しいんです。私の存在意義はそこにあると思っていて。根底にあるのは、“お客さんのニーズにも、工場のニーズにも応えていきたい”という気持ち。品質やデザインと同じくらい、工場の環境も大事にしたい。
だからUSE UNUSEDの商品には、市場で通用する品質・デザイン・価格でありながら、“資源を大切にしてつくられている”という付加価値をつけたイメージです。その価値の部分に対してお客さんが、いいことしたなってお得な気分になってくれたらうれしいです」(廣瀬さん)
つかい手もうれしくなる商品
ものづくりに携わったことのある人は、「消費のパワーバランス」という言葉に、どきっとするのではないでしょうか。
現代のものづくりの多くは、消費者ニーズに寄り添いすぎるあまり、生産現場に素材、人材、時間などさまざまなロスを生んでいます。USE UNUSEDは、「ものづくりの負の部分をやわらげながら、つかい手も嬉しくなる商品をつくる」という、まさにLOOM&SPOOLの理念がプロダクトアウトされたもの。
「いいことしてるな」って感じながら、心ゆくまでつかいたおす。そして「次はどんな素材がやってくるのかな?」と楽しみに待つ。USE UNUSEDの楽しみ方ってそんな感じのイメージです。

Tomoko Hirose
岐阜県生まれ。「パンダ企画」代表。芸大で染色を学び、主にインテリアテキスタイルのデザイナーとして各社で活躍したのちに独立。インテリア商品企画・デザイン、テキスタイルデザイン、雑貨等の商品企画、マーケティングを行う。2019年2月に自社ブランドとして“ありそうでなかった、これからの毛布”というコンセプトで「LOOM&SPOOL」を開始。
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