メルとモノサシ

2021/10/01 00:10


粉雪にシロップをかけたかき氷、N極とS極がくっつく棒磁石、葉っぱと蔦がネットに絡んで伸びていくゴーヤカーテンーー。

 

2021年に10周年を迎えたアパレルブランド「POTTENBURN TOHKII(ポッテンバーントーキー)」のファンにとって、毎シーズンの楽しみの一つは、洋服につかわれている斬新でおもしろい生地。洋服と一緒に明かされるコンセプトに、「今度はそうきたか!」と心躍らずにはいられません。

 

実はこれらの生地の多くは、全国のあちこちの伝統的な“織り”や“編み”の技術を持つ工場でつくられています。デザイナーの中島トキコさんにそのつくり方や思いを聞いてみると、ポッテンバーントーキーの新たな魅力が見えてきました。

 

 

粉雪をかき氷にして食べたい

 

例えばこちらは、「CONAYUKI」という生地。京都の工場で「ラッセル編み」という技術でつくられています。




ラッセル編みとは、主に電車のブラインドや車のシート、体を拭くタオルなどにつかわれる編み方。ファッションにつかわれるとしても帽子やスニーカーのメッシュ部分がほとんどで、服につかわれることはほとんどありません。

 

    

「ホームセンターで網戸や鳥除けネットを見たときに、こういうメッシュ素材で服をつくれたら楽しいな、と思って、ネットで検索して頼みに行った工場なんです。これまでもいくつかの生地をつくってもらいました。CONAYUKIは冬のウールニット用に、「粉雪をかき氷にして食べたい」っていうテーマでつくった生地です。この粒つぶの糸が粉雪みたいだなと思って」(中島さん)

  

 

ピンクはいちご味、イエローグリーンはグリーンティー、加えてエメラルド味なるものまで。思わずじゅるり、となりますが、この粒つぶの糸をつかった生地づくりは、そう簡単には進まなかったといいます。

 

最初は、この糸は通らないかも、と言われたんですけど、いやぁ粉雪をかき氷にしたくて…とイメージを伝え実現してもらったんです。やってくれ、と無理にお願いするのではなく、粉雪っていうテーマだからやりたいんだけどできる方法ありますか?って聞いたら一緒に考えてくださった。今では安定して生産できるようになってきました」(中島さん

 



ウールと麻の棒磁石

 

続いてこちらは「BAR STRIPE」。棒磁石をイメージしたこの生地は、兵庫県西脇市の播州織の工場でつくったものです。




とある糸の見本市で、糸屋さんに「おもしろい事とか変なことでもやってくれそうな工場さん知りませんか?」と聞いて紹介してもらったのがこの工場。これまでに何度もおもしろい生地を一緒につくってきました。

 

    

「この生地は、棒磁石ボーダーをつくりたい、とお願いしました。N極とS極って相反するものだと思うんですけど、織物や糸で相反するものって何かなって思ったときに、夏につかう麻の糸と冬につかうウールの糸って相反してるな、と。この2つの素材で磁石をつくろうと思ったのがきっかけです。

 

ウール(N極)から砂鉄が出て、そこから麻(S極)に変わって…という風に、砂鉄と棒磁石がくっついているイメージをつくりたくて、工場にある技術や今までやってきた柄を応用してもらいました」(中島さん)

 




麻からウールへ切り替える生地をつくるのは至難の業だったそう。中島さんは「N極にくっつく砂鉄にはS極がくっつくと思うんですよね…」と表現したいイメージを伝え、なんとかそれを実現できる組織を組んでもらい、麻とウールの切り替えが連綿と続くボーダー生地ができあがりました。

 




職人さんも喜ばせたい

 

生地づくりの背景を聞くと、中島さんは技術的な“指示”ではなく、表現したい”イメージ”をひたむきに工場に伝え、職人さんと一緒に考えていくというスタイルを貫いているのが印象的でした。

 

 

「組織を考えるアイデアは私にはないので、テーマを伝えて組織を考えてもらっています。職人さんたちもそれを楽しんでくれているんですよね。無理やと思うけどな、って言いながらもなんとか落とし所を探ってくださって、本当にありがたい限りです」(中島さん)

 

 


蔦と葉っぱが絡まっていくゴーヤーカーテンをイメージしたメッシュをつかった「TUBOMI SOCKS」



中島さんが最初にこうした技術に出会ったきっかけは、単純に「おもしろい生地をつくれそう」だったのかもしれません。でも、アイデアを伝えながら一緒に生地づくりをしていく中で、「お客さんだけでなく職人さんも喜ばせたい」という思いが強くなっていったといいます。



「工場に行くと生地の見本がずらっと並んでいて、すごくおもしろいものがいっぱいあるんです。でも、これは昭和以来つくっていない、とか、今はこういう柄の組み方ができる職人さんがいないんだよね、という話を聞くと、おもしろい織り方や編み方が埋もれてしまってもったいないな、途絶えさせたくないなって思うんですよね。

 

今やりとりをしている工場さんには、“新しいものをつくって生地づくりの幅を広げていきたい”という意欲を感じるんです。なので私もそこにぶつかって応えたい。工場の技術と私のアイデアが合わさって新しいものができて、最初は売れないかもしれないけど一歩進めるきっかけになったらいいな、と。ポッテンバーントーキーのアイデアや柄をきっかけに、また日本の織物とかが盛んになってくるような、そんな役割を担えたらいいなとすごく思いますね」(中島さん






また、多くのブランドはシーズンごとにテーマが変わるため、せっかく生地の注文を受けても1度きりで終わってしまうことが多いという工場の現状にも目を向けています。

 


「できれば継続的に注文して工場さんとのサイクルをつくっていきたい、長期的に仕事が依頼できるような力をブランドとして持っていきたいと、ここ最近より思っています」(中島さん)


 

おもしろがる人とともに、続く

 

「おもしろいものをつくりたい」という自然体のクリエイターでありながら、だからこその独創的なアイデアをもって伝統技術の可能性を広げ続けていく。中島さんのものづくりの姿勢を知ると、ポッテンバーントーキーの服にこれまでとはちがった視点からも魅力を感じられるようになります。職人さんと一緒につくっていく過程でほとばしったエネルギーも糸と一緒に織られ・編まれているような気さえしてきて、「身につけたい!」という思いがどんどんふくらみます。





 

「つくったものを着てくれた人やつくってくれた人が笑顔になってくれたり、おもしろいって言ってくれたり、その反応を見るのが楽しくて。それが次をつくる力になるので、つくったものやアイデアで人とのつながりがよりおもしろくなっていくところが、いとおしいのかな」(中島さん)

 

職人の技術にアイデアをぶつけて生まれる生地をおもしろがる人の反応がまた、新たなアイデアをぶつけにいく原動力になる--10年間、ポッテンバーントーキーの服づくりのサイクルが前向きにまわり続けてきた背景には、生地づくりを起点に広がる人とのつながりが不可欠だったのだな、と感じました。

 

そしてそれはきっと、これからも。次は一体どんな技術とアイデアがぶつかり、化学反応が起きるのか、楽しみで仕方ありません。

 




Tokiko Nakajima

2010年、自身のブランド「POTTENBURN TOHKII」をスタート。最近では「ほぼ日手帳」や今治タオル「伊織」とのコラボレーションを行うなど、洋服以外の分野にも活動の幅を広げている

 

 

 

 ★この記事は、中島さんにご出演いただいたインスタライブの公開取材を元に作成しました。ぜひライブ映像もご覧ください

 




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