メルとモノサシ

2022/05/02 10:33




日本の手ぬぐいと、アメリカのバンダナ。どちらも“古くからつかわれてきた生活布”であることに気付いていましたか?

 

「スゲーテキスタイル」の手ぬぐいは、いわばその2つの良さをかけあわせたもの。ヴィンテージバンダナのモチーフをアレンジしたテキスタイルを、日本の伝統的な染色技法「注染(ちゅうせん)」で染め上げています。

 

この手ぬぐいに触れると、つくり手である稲葉大祐さんの、素材やモチーフへのリスペクトが伝わってきます。稲葉さんは一枚の布で、どんな思いを表現しているのでしょうか。

 


手ぬぐいとバンダナに通じる魅力

 

稲葉さんがスゲーテキスタイルの手ぬぐいをつくる上で、切っても切り離せないのが、10代の頃の古着との出会い。

 

1990年代、まだ私は中学生でしたが、ヴィンテージのジーンズやスウェットはこんなにワクワクする手触りなのに、地元のジーンズショップや量販店の服を見ると、同じネルシャツでもなんか違うなぁとか、現行のスニーカーより少し前の方が形も素材もいいなぁとか、そういうことにすごく敏感だったんです。その素材感や世界観がきっかけで、古着にのめり込みましたね」(稲葉さん)




学校では染色を学び、ものづくりの道へ進もうと思っていた稲葉さんでしたが、就職したのは繊維製品の検査機関。生地の耐久性や色落ち具合などを検査・数値化し、品質を評価する仕事をしていました。

 

バンダナ柄の手ぬぐいを初めてつくったのは、そんな仕事をしていた2008年ごろ。

 

「手ぬぐいをつかい込んでいった雰囲気に感じる魅力と、自分も含め古着やヴィンテージが好きな人がバンダナの雰囲気に感じる魅力って、同じような気持ちだな、と。そういう人たちに向けてつくったら面白いんじゃないかと思い、2型だけつくってみたんです」(稲葉さん)

 


作品の完成度は高かったものの、当時はあくまで趣味。それっきりで10年近く経ったのち、2017年に「自分で何かやりたい」と仕事を辞めた稲葉さんは、「スゲーテキスタイル」として本格的に手ぬぐいづくりを始めたのです。

 

 

「注染」なら世界観を表現できる

 

稲葉さんが手ぬぐいづくりに選んだのは「注染」という、生地自体に染料を染み込ませる染色技法。表も裏もしっかり染まるだけでなく、つかうほどに色が落ち、経年変化を楽しめるのが魅力です。

 

ヴィンテージバンダナと手ぬぐいをかけ合わせる上で、古着の世界にのめり込むきっかけにもなった“素材感”が欠かせなかったという稲葉さん。世間一般で言う「日本のものづくりっていいよね」には懐疑的な立場でありながら、それを叶えてくれるのは日本の繊維産業であるとも思っていました。


「もちろんレベルはいろいろですが、織りにしても染めにしても、日本の繊維産業はしっかりした仕事ができるのは間違いない。自分の好きな世界観を表現するのに、この技法が適していました」(稲葉さん)




職人の作業による高いクオリティーを求め、現在は福島県の注染工場に発注しています。そうすることで、日本の繊維産業に微力ながら貢献し、長続きさせていきたいという意気込みも。

 

「日本のものづくりって、いまいち現代にフィットしていないものもあり、この先どうなるのかという危機感がある。昔ながらの日本らしい手ぬぐいも素晴らしいけれど、手ぬぐいをまだつかっていない人、知らない人に向けて新しい提案ができたらいいなって。今後つくりたい人が増えることも大事だと思いますし」(稲葉さん)

 

単純な柄の中に散りばめた工夫

 

稲葉さんの“新しい提案”であり、スゲーテキスタイルの象徴とも言えるバンダナ柄のデザインは、すべて稲葉さん自身で制作しています。単純なバンダナモチーフの配置に見えるかもしれませんが、ここには稲葉さんの並々ならぬこだわりと努力が注がれています。




「一つの模様のパターンをつくってリピートするとしても、単純にコピー&ペーストしたものだと、いくら注染独特の歪みが出るとはいえ、やっぱり人間の目ってすごいので、リピートだとわかってしまうんです」(稲葉さん)

 

とはいえ、単純につくられている柄が好きだという稲葉さん。一見すると単純でも、よく見ると「あ!」と発見があるような、面白い気配りをしています。実はそれこそが、ヴィンテージバンダナの再現でもあるそう。

 

「昔の柄って手描きなので、歪みや間違いが結構あるんですよ。例えば花弁が他は6枚あるのに1つだけ5枚しかないとか、花が3つあるべきところに2つしかないとか。そういう、人のミスみたいなものがちゃんと残っている。今だからこそそれが面白いと思っていて、そういうことを意識してわざとやっています」(稲葉さん)




稲葉さんはそんなしかけを決してアピールしません。人気のラーメン屋さんが時代に合わせ、お客さんに気づかれない程度に少しずつ味を変えているのを参考にしているそうです。

 

また、線が細いバンダナ柄を注染で表現するための工夫もたくさん。それを選りすぐりの染め工場に依頼することで叶えています。


「デザインする上で、これが一番の腕の見せ所だと思うんですね。バンダナと同じ柄をつくるにしても、その雰囲気を損なわないために何をするか。ただ拡大することが正解なんじゃなくて、線を1本省いても同じに見えるとか、線幅を変えた時に同じ印象になるとか、そこを工場に負担のないやり方で、なおかつ自分が表現したいものにしていく。そのせめぎ合いをいつもしています」(稲葉さん)

 



「そこそこ精通している人にも認められつつ、全く知らない人が見てもいいと思うものをつくりたい」と稲葉さん。染色の知識をいかしながら、バンダナの魅力的なモチーフを再構成することで、元の柄とは一味違う、新しいパターンを生み出しています。


生活の中でつかい続けてほしい

 

手ぬぐいは「日常生活でつかってほしい」としながらも、そのつかい方を具体的に提案しないのが稲葉さんのスタンスです。


「この柄いいな、と思って手に入れたものって、人はどうにかしてつかうと思っています。だからデザインが好きで衝動買いするのってすごくいいな、と。気に入ったから買ったけど、じゃぁこれをどうつかおうかなって考えるのが一番面白いところ」(稲葉さん)




手ぬぐいに縫い目がないのは、雑菌の繁殖を抑え、乾きやすくするため。まずはフキンやハンカチ、首に巻くなどしてつかいはじめ、やがて色が褪せ破れてきたら、掃除道具にしてつかい終える。そんな風にあれこれ考えながらつかい方を変えていけるのは汎用性の高い手ぬぐいならでは。

 

「注染の色落ちの感じや、布をつかい続けていくとどんなことが起きるのかを知ってほしい。色落ちや経年変化が起きることって、品質的に見たらネガティブなんですけど、私には、“ダメなものっていとおしい”っていう気持ちがあって。この手ぬぐいは色落ちして毛羽立って劣化していくからいとおしいわけで、半永久的に色が落ちない、毛羽立ちも起こりませんって言われたら、品質的には高いかもしれないけど自分は気に入ることもないしつかわない。時間と共に変化していくことが一番の魅力。それをポジティブに捉え、体感してもらいたいです」(稲葉さん)





ダメなところがいい――。検査機関でずっと、毛羽立ちや色落ちを「ダメ」と評価してきた稲葉さんが言うからこそ、深みのある言葉に感じます。肌馴染みがよく、風合いも早く出るよう、手ぬぐいにはあえて目の荒い生地を選んでいるそう。品質とは違う角度で、“布をつかうことの価値”を噛みしめていきたいです。







Daisuke Inaba

 2018年より故郷の神奈川県鎌倉市にて「スゲーテキスタイル」として活動。自身がのめり込んだ90年代のカルチャーの影響を広く楽しんでもらえるようなものづくりを心がけている。






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